中央大学犯罪学研究会・刑事法研究会での発表
修士論文の提出を控え、研究会で発表をさせて頂きました。
行政刑法の射程
-行政刑法における罰則の問題点-
博士前期課程2年 深川幹祐
1.
はじめに
問題意識…公職選挙法が再検討の時期に来ているのではないか
問題提起…公職選挙法上の犯罪と刑罰を定める条文は、ホワイトカラー犯罪であるからこそ、条文解釈上過度の広汎性はあるように感じられるが刑事法として合憲限定解釈を行うべきである。また、犯罪と非犯罪行為との区別が困難であるがゆえに、故意の認定も困難となっている。
2.
目的と意義
目的…公職選挙法上の犯罪における構成要件論及び責任論における解釈論を示すこと
意義…日本国憲法が保障する基本的人権の保障及び国民主権の貫徹
3.
各説の比較
①
美濃部達吉、藤田宙靖、宇賀克也各先生 行政法→行政刑罰
②
団藤重光、福田平、藤木英雄各先生 刑法→行政刑罰
③
オットーマイヤー説 行政法→行政刑罰
④
ゴルトシュミット説 刑法→行政刑罰
4.
行政刑法の課題
①
可罰的違法性
②
違法性の意識
5.
行政刑法の射程
公職選挙法 寄付について、戸別訪問について
具体例に対する構成要件解釈論を展開
6.
本論文の限界及び結論
以下、読み原稿です。
博士前期課程2年刑事法専攻の深川幹祐でございます。
今回のテーマ「行政刑法の射程」について述べさせて頂きたいと思います。
私は現在、大田区議会議員を務めております。以前は衆議院議員、都議会議員の秘書をする中で選挙の事務責任者である選挙対策事務局長を務めました。
選挙一切の取り仕切りが仕事ですが、そこに含まれるのが公職選挙法の問題です。本論文を執筆する動機として、国民主権ないしは地方自治を規制する公職選挙法における解釈論を再検討する必要性を強く感じていることです。公職選挙法における条文解釈によって導出される構成要件の曖昧性、不明確性が、基本的人権のひとつである参政権を委縮させていることからです。この点、前回の参議院議員選挙に比例区に出馬した若狭勝弁護士とも、刑法的観点からの議論の必要性について意見交換をさせて頂きました。この点、刑事法的視点から行政刑法を見つめ、その観点から公職選挙法を検討したいと思いました。
次に本論文の目的と意義です。
このような公職選挙法が規制しようとする犯罪は、選挙の公正さを侵害する行為であり、その特色としては、ホワイトカラー犯罪の特色と一致するように思われます。犯罪は、貧困者や精神・人格に異常のある社会生活の落伍者によって犯される、という観念が存在しております。確かに、殺人罪、窃盗罪、強盗罪などの原始的な犯罪については、そのような観念が当てはまるようにも思われます。しかしながら、アメリカのサザランドが指摘するように、ホワイトカラー犯罪は、伝統的な犯罪観では説明することが困難であると思います。
つまり、公職選挙法が規制しようとする犯罪は、前国家的な、自然状態において自然権を侵害する犯罪、つまり自然犯とは異なり、後国家的な、国家成立後において犯罪としてラベリングされたもの、つまり法定犯です。比較的歴史の新しい、国家の進展にともなって生み出された犯罪なのであります。つまり既成の犯罪概念に当てはめようとすると、課題が見えてきます。
第1に、公職選挙法の解釈問題として、開かれた構成要件としての性格であります。この点、自由主義、民主主義を根拠する罪刑法定主義(憲法31条)の見地からは、犯罪と刑罰を定める規定はできるだけわかりやすく、一読しただけで、処罰される行為が具体的にどのようなものであるか、明瞭に理解できるように制定されることが理想とされるべきであります。しかし、公職選挙法における条文は、ある程度抽象的に構成されていると思われます。その結果として、正常な日常的行為として社会通念上疑義のない行為が、条文から導かれる構成要件に該当することになる場合が出てくることになります。そのため、国家刑罰権の謙抑主義という考え方が重要になります。つまり、合憲限定解釈の手法による公職選挙法の処罰規定の解釈が、必要となると考えます。
第2に、刑法第38条1項の「罪を犯す意思」の認定であります。公職選挙法上の犯罪は、すべて故意を必要とするものと解されます。なぜなら条文上公職選挙法には過失犯の規定がないからであります。しかしながら、政治活動において、選挙の公正等の保護法益を侵害する行為には、必ずしも故意によらない場合が少なくないのであります。この結果、立候補の自由(憲法15条1項)及び政治的表現の自由(憲法第21条1項)が委縮し、それらの基本的人権が過度に圧迫されることがないようにしなくてはならないと思います。すなわち、未必の故意の認定をすることは極力回避すべきであると考えます。つまり、故意かどうかを認定することは、客観的な理論の問題としても、実際上の証明の問題としても、非常に困難となるように思われます。
よって公職選挙法上の犯罪は、犯罪行為と非犯罪行為との限界が、必ずしも明白ではありません。そしてこの点こそが、本論文の問題提起であり、刑法の謙抑性から合憲限定解釈を示し、その構成要件を故意、違法性の意識、違法性の意識の可能性の妥当な解釈論を示すことが、本論文の目的となってくるのであります。
次に、行政罰に含まれる過料(秩序罰)と罰金(行政刑罰)との整合性です。
具体的に道路交通法で説明をさせて頂きます。
冒頭でお話した内容を詳しく説明させて頂きます。
自転車と自動車の比較です。
自動車運転者には行政罰である反則金制度があり、同じく刑事罰もあります。しかし自転車運転者に対しては、行政罰はなく、刑事罰のみとなっております。
この場合多くの自動車運転者は反則金を納めることにより違法性、可罰性が低減され、刑事罰に問われることは少ない状況です。しかし、自転車運転者については行政罰がないために多くは警告止まりで、罰を与えられないことが多いのですが、逆に行政罰がないために現行犯として逮捕される事例もあります。
こういった場合に不均衡が生じます。
このような帰結になることは、行政法から行政罰そして行政刑法という思考回路が強く、他の刑罰との比較を行う刑法から行政刑法という視点が強ければこのような結論に至らないと思います。
このようなことからこの分野を研究する意義があると思います。
次に各説の比較であります。
この行政刑法を日本で最初に体系的に位置付けたのは美濃部達吉先生であります。各説の比較よりもまず自身の行政法学者としての見解を強く行政刑法概論の中で訴えておられました。その後、団藤先生は、「刑法からの独立した一類型としての行政刑法の出現は近代的な現象だといわなければならない」と主張されました。福田先生は、「行政刑法は、刑法の特殊部門として刑法に属すると解すべきであろう。なお、このように解することによって、国家の刑罰権に関する法体系を統一的に理解することができよう」と主張されております。
その後、藤木先生はいままでの行政刑法総論からもう一歩踏み込んだ行政刑法各論というところに駒を進めておられます。
藤木先生の著書「行政刑法」の中には、公務員の職務犯罪、公務の妨害と犯罪、選挙犯罪、労働争議・集団行動などと具体的に検討をされております。
また、現代の行政法学者として宇賀克也先生や藤田宙靖先生の見解を参考にさせて頂きます。
続いてドイツです。
ドイツも同じように、行政法学者であるオットーマイヤー先生が行政刑法というものを位置付け、その後、ゴルドシュミット先生は、警察の活動範囲が拡大され、ここから行政官庁である警察官庁に刑罰権行使機能を認める必要性が出来、警察刑法問う概念が出来たその、従前の警察犯と刑事犯に分かれていたものを再編成し行政刑法というものをまとめられました。そもそも美濃部先生の見解のもとはドイツでありますので、その元をたどることは重要であると思います。
次に、可罰的違法性の問題です。
近時の公選法違反事件、たとえば、寄付の禁止や買収事犯を見ると過去において摘発、検挙されていなかった程度の違反でも立件されることが多くなっております。つまり国民・候補者双方が公選法に違反しないようにという風潮が広まっていることにより軽微な違反でも取締りを実施していると思われます。
つまりこの問題に対する定型的な構成要件論が構築されていないと思います。
この点に踏み込むことが本論文の意義であります。
最後に違法性の意識についてです。
行政刑法犯を行政法見地から検討すれば当然のように、違法性の意識不用説に立つと思われます。この際、刑事法学者から自然犯には違法性の意識は不要でありますが、法定犯には違法性の意識は必要であるとの理論が展開されてきている。
公職選挙法を例にとって説明致します。
この夏の参議院選挙でもビラを配布するために様々な工夫をしております。
それが、うちわ型ビラです。厚紙で丸などにくりぬいたものです。公選法にはビラの頒布制限などは記載されておりますが、形状や厚みなどの規定はありません。工夫の一環であるとも考えられておりますが、選挙関係判例実例集によると、199条の2、寄付の禁止のなかで、うちわやカレンダーの提供も含まれるかとの問いに対し、含まれると昭和50年に回答していると記載されております。この場合どうなるのでしょうか?
行政内部法たる通達があります。ビラという規制対象になっておりません。
したがって、公職選挙法上の犯罪成立要件としては、違法性の意識ないし違法性の意識の可能性についても検討する必要性が存在するのであります。
次に、行政刑法の射程です。
藤木先生のように各論に踏み込みたいと思います。
公職選挙法の解説は通達でもある総務省選挙部が編纂した逐条解説などが多くありますが、刑事法学者のものは少ないのが現状です。また、実際の選挙を経験したものが各論文は皆無であることから、実態に即さないものがままあります。
また、公職選挙法違反事件に関しては、他の法律違反事件と違って最高裁まで争わず、地方裁判所レベルで有罪を確定させ、連座制適用期間や公民権停止期間を速やかに終了しようとすることが多くあります。なぜならば、長期にわたって係争することにより他陣営に地盤を奪われ、結果的に議員に戻れないことを想定しているからであります。
この点は、公職選挙法の法改正によって起きている現在の状況であります。
以前の藤木先生の論文では訴訟の長期化させることにより、実際上空文に帰していると批判がされていることとされておりますが、現在は逆転しております。
また、地裁判決が確定判例として積み重なることが多いことにより、判例通しが相反することもあります。
最後に本論文の限界及び結論です。
根本的な可罰的違法性の議論や違法性の意識の問題、ドイツにおける選挙法との比較、課題の山積する公職選挙法各論部分への言及などは時間と文字数の関係もあり十分にできないと思われます。
また、他国には我が国のような公職選挙法の規定のようなものはありません。今後そういった他国の選挙法との比較を行いたいと思います。
しかし本論文において少しでも一定の方向性を示したいと思います。
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